「花を植える」に込めたふるさとへの想い

「花を植える」に込めたふるさとへの想い

田植えが終わり小さな稲の緑が深さを増す頃、市野々では、ある作業が行われます。
毎年6月、集落内を通る幹線道路沿いに花を植える「フラワーロード整備」作業です。

同じ想いを持つ人が集まる共同作業

集落総出で行う共同作業、市野々では「人足」と呼ばれます(地域や集落によって呼び方は変わるようです)。主に農業用施設(農道や用水路、ため池)周辺の維持整備を目的に、集落の各家庭から労働力を提供してもらう「人足」は、糸魚川地域では古くから行われている慣習です。
作業内容は草刈りや用水路清掃、お社の清掃など、各集落それぞれ異なりますが、市野々集落では前述の内容のほかに、美しい景観形成にも集落をあげて取り組んでいます。

市野々では、草刈りや用水路清掃などを主に男性中心に行っています。参加してくださる方は、かつて市野々に暮らしていた方、市野々がふるさとの方たちです。普段は街中に暮らす方たちが、人足になるとこぞって参加してくださる。とてもありがたいことです。さらに、このフラワーロード整備には市野々にゆかりがある方はもちろん、「応援したい」という理由で参加してくれる方がたくさんいらっしゃいます。特に女性が多いこともこの活動の特徴です。もちろん、私たちあぐりいといがわも大勢で参加しています。


想いをもって集まってくださる方々。

どうしたら人が訪れる場所になるか

きっかけは、国から交付される補助金でした。交付対象としていくつかある選択肢から、市野々集落は「景観形成」を選択しました。「一人でも多くの方に市野々を訪れてもらいたい」ということがその理由です。市野々から十数キロ山あいに入ると「越後の上高地」とよばれる景勝地「海谷渓谷」があります。集落内の幹線道路を通り行楽シーズンには多くの観光客が訪れる地ですが、市野々はどの車もみな素通り。車を止める観光客はほとんど見受けられません。
暮らす人が減れば、訪れる人も少なくなります。寂れる一方の集落を素通りしてしまうのは仕方のないことかもしれません。だからこそ「花を植える」という選択をし、「足をとめてもらう」ことを望みました。農作業の効率化など、農家の所得向上につながる選択肢があるにもかかわらず、市野々集落にかかわるすべての人が「人の気配」にこだわったのです。市野々で農業を営むわたしたちあぐりいといがわも、もちろんその想いに共感しました。

草を刈り、耕す。苗を植えて肥料と水をあげる。楽に思える作業も立ったりしゃがんだりの繰り返しで、意外なほど体力を消耗します。さらに、6月とはいえ真夏並みの暑さになる近年では、参加される方、特に年配の方には過酷な環境ですが、同じ想いを持つ仲間たちとともに、コツコツと作業は進みます。
休憩時間にはそれぞれがおしゃべりに花を咲かせ、どなたもみな笑顔。参加される方にとってはこの時間も楽しみのひとつ、そして市野々にとっても賑やかな声と笑いが欠かせないものとなっています。


約250本、すくすく育てと願いを込めて。


炎天下での作業も想いがあればこそ。

いつまでも残したいふるさとのためにできること

イノシシに荒らされたり、枯れてしまったり、草取りなど日々のお世話も大変だったりと、苦労も多いこの活動。当たり前に一年ずつ歳を重ねていく参加してくださる方たち。いつまで続けられるだろうという不安を常に抱えながらも、想いをカタチにするために頑張る姿には頭が下がる想いです。まだまだちっぽけなお花畑で、見に訪れる人や足を止める人は決して多くありません。それでも、この小さな活動の積み重ねが市野々を、ふるさとを守る力になると思っています。この活動がいつまでも続くように、ひとりでも多くの方の心に届くように励んでいきます。そして、市野々が多くの方に関わっていただける場所、末長く訪れたいと思う場所になることを願っています。


いつか大きな花が咲くその日まで......。

フォトギャラリー


美しい山里を守るためには草刈りも大事な作業のひとつ。


たっぷりの水で潤いを取り戻す土と苗。


かき氷につられてやってきた小さなお手伝いさん。


苗より一足早く、おしゃべりの花が咲いています。


秋になると黄色の小菊が咲き、一面のお花畑になります。


迎えた秋、可憐に咲き誇る小菊。