「誰かの『特別』になった愛おしいほど魅力あふれる地域が日本中に広まってほしい」  あぐりいといがわ×おてつたび 特別対談

「誰かの『特別』になった愛おしいほど魅力あふれる地域が日本中に広まってほしい」 あぐりいといがわ×おてつたび 特別対談

お手伝いで地域と旅人をつなぐ新たな旅の形「おてつたび」


「おてつたび」とは「お手伝い」と「旅」を掛け合わせた造語で、人手不足で困っていたり、地域のファンを増やしたいと考えている地域と、地域で働いてみたい旅人(おてつびと)を「お手伝い」でつなぐサービス。旅人にとっては、お手伝いをきっかけに旅した地域の魅力を知り、気づいたら自分にとって”特別な地域”になっている、そんな新しい旅の形です。

おてつたび https://otetsutabi.com/


今回は、「おてつたび」を利用し、2名の「おてつびと」を受け入れたあぐりいといがわの青木 仁と、「おてつたび」の代表で、日本各地の地域の魅力を知る永岡里菜さん、広報PRの園田稚彩さんとの鼎談を実施。「誰かにとって特別で、愛おしいほど魅力的な地域が日本中に広がるには」という大きなテーマについて、一緒に考えていきます。

                                                                                                                                          (進行役・文 岡島 梓)


あぐりいといがわの「おてつたび」体験記


――青木さんが「おてつたび」の活用を決めた理由を教えてください。

青木:今日のテーマでもある「誰かの『特別』になった愛おしいほど魅力あふれる地域が日本中に広まってほしい」という「おてつたび」の理念と、「知らない町へ旅しよう」という言葉にグッとつかまれたんですよね。あぐりいといがわが農業に取り組む大きな理由は、糸魚川の財産である農業と農地を守って「糸魚川を『暮らし続けたいまち』として存続させたい」からです。

そのためにも、全国に糸魚川のファン(関係人口)を増やしたいと長年考えてきましたが、綺麗な風景と美味しいごはんが魅力という地域は、全国に数えきれないほどある。地道な活動にはなりますが、糸魚川の魅力を伝えるには、一度でも足を運んでいただくことが大切だという結論に達しました。


永岡
:よくわかります。私の故郷の三重県尾鷲市も、現地で時間を過ごしていただくことで初めて魅力がわかる場所です。


青木
:そこからしばらくは「糸魚川に足を運ぶきっかけって、どんなものだろう?」と悩んでいました。最初は、あぐりいといがわでの「農業体験」という目的を、来訪の後押しにしようと考えたのですが、しっくりこなくて……そんなとき、「おてつたび」を知り、「お手伝い」が、来訪の良いきっかけになると直感し、すぐに問い合わせをしたんです。


――あぐりいといがわにも2名の「おてつびと」が旅しに来てくれていますよね。お二人は、どんな経験やひとときに心惹かれていましたか?

青木:「米やトマトをつくるのに、こんな作業をするんですね」「スーパーで買える食材になるまでに、こんなに手間がかかるんですね」と、心底驚かれていたことを覚えています。うちでお願いしているお手伝いは、田植えや稲刈り、収穫といった農業のハイライトではなく、連綿と続く、地味だけど大切な作業です。そういった「知られざる作業」を経験していただくことで、「普段、何気なく口にする食材への見方が変わった」「ありがたいという気持ちが自然と湧いてきた」といった感想をいただきました。


東京在住20代の女性。稲の種まきをお手伝いしていただきました。


永岡:「出来上がった作物を収穫して、その場で食べる!」みたいな、楽しいだけの農業体験とも、また違う取り組みだからこその感想ですね。


青木
:あとは、単純ですが「魚美味しいねぇ」とか、地域の「当たり前」に喜んでくれていましたね。こちらとしては、「あ、そうなんだ」という感じで。実は、自分たちも恵みに満ちた毎日を送っているのかもしれないと気付かされた気がしました。ある著名人が「地方の人間が一番地方のことを知らない」と仰っていて、本当にその通りだなと。


永岡:わかります。自分のよさですら、第三者に「ここが強みだね」とか「ここがいいね」と言っていただくことで、やっと気付くことがある。地域も同じかもしれませんね。


埼玉在住20代男性。ぶどうの袋掛けをお手伝いしていただきました。

 

誰かの特別な地域になるために必要なのは「あなたは、ここにいていいよ」の表現


――続いて、「誰かの特別な地域になるために」必要なことって何だと思われますか?

青木:旅人を受け入れる地域や事業者は、旅人に「居心地よさ」を提供する必要があるのではと考えています。


永岡:同感です。「居心地のよさって、どんなときに生まれるんだろう」と考えてたどり着いた一つの仮説は、旅人が「私はここにいてもいい」と感じたときが、居心地の良さとイコールなのではということでした。



「おてつたび」代表の永岡さん。ご自身も「おてつびと」として多くの地域を旅してこられました。


青木:「ここにいていいよ」の表現って、いろいろありそうですよね。今も、実は「おてつびと」さんとの良い距離感について悩んでいて。「おてつびと」さんの自由時間は、こちらからアクションを起こさないようにしているのですが、本音ではどうなんだろう。よかれと思って、地元を連れまわすような押しつけもしたくないし……。


――他の事業者さまで、よい距離感を保たれている例はありますか?

永岡:そうですね。事業者さまと「おてつびと」が出会う初日に、すり合わせをされていることが多いです。「おてつびと」の皆さんは、地域の方の日常を知りたいという方が多い。業務に負担がないことは大前提にアテンドしていただけると、よろこぶ参加者が多いと思います。互いにリスペクトし合い、ひと時、苦楽をともにする仲間という温度感で接していただければとお願いしています。


青木:これまでも、行ってみたい場所や食べてみたいものを訊いて、情報をお伝えしたり、自力で行けない場所にはお連れしたりはしましたが、これからは「どんな風に過ごしてみたい?」と訊いてみたいです。あとは、例えば……「糸魚川では美味しい魚を食べたい」という「おてつびと」に美味しい魚が買える魚屋さんを紹介して、地域の日常に近い体験を提供するとか。


永岡:それいいですね!


青木:非日常の旅を経て、「ここが自分の居場所なら、どうやって過ごすだろう」とイメージできるようになると「ここにいていいよ」につながる気がしますね。


永岡:まさにそうですね。「おてつびと」の中には、旅先から帰るとき「泣いてしまった」という方も数多くいらっしゃいます。アドレナリンが出っぱなしの非日常を楽しむ旅と「おてつたび」はひと味違う。地域の人やその土地に愛着を感じて、離れたくないという想いが芽生えるといった意見もよく耳にします。


青木:糸魚川は、非日常を味わいに行くディズニーランドには絶対になれない。そう思うと、普段の暮らし、日常の心地よさを磨くしかない気がします。


永岡:都心での居心地の悪さを感じ、「ここにいていいよ」と感じられる旅を求める人は増えている気がします。以前、わたしたちは何かあったら連絡したくなるような「かかりつけ薬局」ならぬ「かかりつけ地域」を多くの人が持っていたらいいよね! と話していました。今暮らしている場所以外の地域と関わり合いができると、人生も二倍、三倍に豊かになると思います。



今も多くの地域と関りを持ち続ける永岡さん。


「あなたは、ここにいていいよ」は、地域の「余白」のそばにある。


園田:以前、「おてつたび」に参加し、そのまま移住した女の子に移住理由を訊いたことがあるんです。すると「小さな話だけど、地域のおばあちゃんにスマートフォンの使い方を教えてあげたら、すごく喜ばれたことが移住のきっかけだった」と教えてくれました。

自分が当たり前にできることで、地域の人が喜んでくれる。大きな組織で働いていると、自分以外に替えの効く仕事に忙殺され、自分の存在価値を見失ってしまいます。一方、地方には「余白」があるというか、自分が役に立てる余地があると感じられることがある。役に立てたという実感、役に立ちたいという想いが、地域への愛着につながる。人は、不十分や欠落に恋をするのかもと感じました


永岡:それはありますね。地域の「余白」を知り、自分が「何かできるかも」と動き出すことで、地域の方との関わりが深まり、地域の魅力を知ってほしいとさらに動きだせる。実は、地域の不完全さこそが「ここにいていいよ」の表現になるのかもしれません。


青木:考えたこともなかったですが、そうかもしれませんね。ありのままを見てもらい、糸魚川の魅力だけでなく、足りていない部分についても「おてつびと」に意見をいただく機会をつくりたいです。


園田:すごくいいと思います! 新たな視点を求められるだけでも「おてつびと」が役立てている実感を得られ「ここにいていいんだ」と安心できるはずです。



広報PRの園田さん(右)。「余白」こそが、旅人の居心地のよさにつながる可能性があると話す。


地域のファンを増やすには「人」のファンになってもらうことが始まり


永岡:「私にとって特別な地域」はどんな場所だろうと考えると、最初に地域で出会った人の顔が浮かびます。地域の「人」のファンになって、地域のファンになる……まずは人なんですよね。

どんな想いで、どんなこだわりを持って事業を営まれているのか。農業や地域のストーリーを深い部分まで聴かせていただくと、自然と他の人にも話したくなります。「こんな想いでつくられたお米なんだ」と伝わることで、さらにファンが広がっていく。お手伝いを通して垣間見える「人となり」に触れ、心を動かされた「おてつびと」が、徐々に地域のファンになっていくのではないかと思っています。「人」が目的地だと何度も行きたくなります。


青木:全く同感です。わたしたちが「おてつたび」を活用させていただく理由は、より多くの方に、農業のリアルを知ってもらいたい、糸魚川の里山で農業を続ける理由を知ってもらいたいからです。それを知ってもらわなければ、来ていただく意味がないと思っているので、糸魚川の里山(市野々)にご案内して、現地を見ながらお話ししています。ある「おてつびと」さんは帰り際、「また、会いに来ます」と言ってくれました。「また来ます」ではない。ほんの少しの言葉の違いですが、うれしかったです。



あぐりいといがわが農業を営む里山、市野々。


――その違いは、大きいですね。

永岡:実は、「おてつたび」を創業する前は「人に会いに行く旅」というコンセプトを考えていたんです。ただ、人の魅力の多くは内包されている。表面的なスペックとして魅力が表現できない中で「〇〇さんに会いに旅しましょう!」と呼びかけても、旅人も手を挙げづらいですよね。


青木:散々「人」が大事! と言ってきましたが、私ならその旅、絶対行きません(笑)。「誰!?」って思うし、その人と何をしゃべっていいか全くわからないですし(苦笑)。


永岡:(笑)。「人に会いに行く旅」を「おてつたび」という形に変えたのは、「お手伝い」というワンクッションを挟むことで、自然と地域の人と会話ができて、一緒に作業をすることで、互いの人となりも徐々にわかってくるんじゃないかと考えたからなんです。


青木:「おてつたび」という形になって、受け入れ側としても本当によかったです(笑)。観光名所のようにガイドブックには載せづらいけど、きっと、地域の人こそ地域のファンをつくりだす唯一無二の財産。わたしたちも、糸魚川まで旅してくれた「おてつびと」と互いの人となりを知り合い、一緒に、糸魚川の魅力を探し続けたいです。



それぞれの想いを語りながらもとても楽しい時間でした。


フォトギャラリー


オフィスに掲げられた「おてつたび」の魂。



ひときわ大きく書かれた合言葉。



スタッフの方たちの人となりを表す言葉。



スタッフのみなさんのモットー。それにしても達筆だ!



お土産のトマトジュースに群がる女子たち()



からだ全体でPR!歩く広告塔()



ライターの岡島さんと。奇妙?な縁で繋がった3人。



誰かの特別な地域に・・・ともに目指していきましょう!


対談を終えて

あぐりいといがわが「おてつたび」を知ったのは、今回お世話になった岡島梓さんがきっかけでした。以前に永岡さんにインタビューした岡島さんは、「おてつたび」が提供する新しい旅の形に、そして永岡さんの想いに感銘を受けたそうです。その感銘は言葉となって私に伝わりました。

「誰かに話したくなっちゃうんですよね」・・・今の私がその心境です。

永岡さんとお話しさせていただき、「おてつたび」の想い、目指すところ、すべてが私たちと近しいと感じました。こんな素敵な「おてつたび」、誰かにベラベラ話しまくりたい()

今後も「おてつたび」を活用し、多くの「おてつびと」が、「あぐりいといがわってね・・・」「糸魚川ってね・・・」と、誰かに話したくなってもらえるように。日本のどこかの誰かの言葉のなかで、私たちが溢れる日を目指していきます。