生産者とのつながりが料理の質を高め、人生も豊かにする

生産者とのつながりが料理の質を高め、人生も豊かにする

 
あぐりいといがわの農産物は、こだわりの料理を提供するシェフにも愛されています。今回お話を伺ったのは、東京・両国のイタリアンレストラン「レガート」でシェフを務める宮内 洋さん。あぐりいといがわ自慢の「樹熟金線トマト」との出会いから糸魚川に何度も通われている宮内さんに、食材選びの基準や、料理に込める想いについてお話しいただきました。

(聞き手 あぐりいといがわ 青木 仁)

 こだわりの料理で多くのファンを虜にする宮内洋シェフ


「あの人に会いたい。あの人から買いたい」という選択基準


――まず、宮内さんがイタリアンシェフを志したきっかけを教えてください。

小さい頃から漠然と「なにかつくる人になりたい」という想いがあり、料理の専門学校と迷った末、工業デザインの専門学校に行きました。でも、校内で優秀な人たちと出会って挫折し、卒業後はやっぱり料理人だと決めてあるレストランチェーンに就職しました。
未経験だったので、早く調理経験を積んだほうがいいと、チェーン内のビストロやイタリアンで3年ほど働き、西麻布の老舗イタリアンに転職。しばらくここで頑張ろうと思った矢先、兄貴分のシェフが「一緒に働かないか」と声をかけてくれたんです。そのお店が、「レガート」の前身である両国「吉良亭」でした。「吉良亭」は2002年オープンなので、両国でのシェフ歴も20年ですね。


――「レガート」のメニューは誰がどのように考えているんですか?

僕が考えますが、発想の源は魅力的な食材です。
イタリアンは、もともとシンプルな味付けで素材を活かす料理。生産者のこだわりや想いが詰まった食材の力を感じ、その魅力をどうやったら引き出せるかと常に考えています。


完熟トマトがまるごと1個乗っかったパスタ


――宮内さんが食材を選ぶ際に大切にしていることや、基準はありますか?

青木さんを前にして言うとヨイショ感が出ちゃいますが(笑)、「この人から買いたい。この人がつくったものを食べてみたい、この人と長く付き合っていきたい」と思える生産者さんかどうかは大事にしている気がします。その方がつくったものというだけで、安心できますしね。

そういった「人基準」は、うちのお店にも言えることかなと思うんです。美味しい料理を出すお店は、都内だけでも星の数ほどある。それでも、うちのお店を選んで来てくれるのは、「僕ら夫婦に会いに行こう」という動機も実はあるのではと感じています。


――お店も、食材を生み出すわたしたちも「あの人たちに会いたい、あの人たちの料理を食べたい」「あの人たちから買いたい」と思っていただけるつながりができたら、素晴らしいですね。

本当にそうですね。お客様はきっと、食事だけ、食材だけを求めているわけではない。生み出すもののクオリティはもちろん大切。でもクオリティが同等なら、好きだったり、応援したいと思う人から買いたいという方も多いのではと感じています。


あぐりいといがわのトマトは「人を前のめりにする風味」


――宮内さんは、あぐりいといがわの農場に年2回のペースで来てくださっていますよね。そんなに来ていただけるのはなぜなんだろうと率直に気になります。

あぐりさんのトマトを食べてしまったからです(笑)。

「レガート」のお客様が、あぐりいといがわのトマトを取り寄せたとFacebookに投稿していて、その赤さに驚いてすぐ注文しました。大きいのに身がしまっていて、旨さがギュッと詰まっている。スーパーで買うトマトとは違って、ぎりぎりまで茎から栄養をもらった完熟トマトが直送されてくるので、栄養価も高い。「サラダに入っていたから食べる」といった受け身ではなく、「このトマトをもっと食べたい」と人を前のめりにさせる味でした。それが、あぐりさんがこだわる「鮮度」なんでしょうね。

農場を訪ねたのは、食べて一か月経たない頃でした。速いですね(笑)。訪ねた理由は、「こんなおいしいトマト、どんな人がつくっているんだろう」と気になったことが大きいです。青木さんに、農法や作物について教わりながら、トマトやきゅうりのハウスを見せてもらいました。

電車好きの息子と黒部峡谷鉄道に乗りに行く約束していて、それなら糸魚川にも寄りたいと、家族で伺ったこともありましたね。ぶどう畑での摘粒(粒の間引き)、稲刈りも体験させていただいたりと、冬以外年中お世話になっています(笑)。



宮内シェフを虜にした?!あぐりのトマト


――宮内さんは、トマトをはじめ、さまざまな糸魚川産の食材を使ったメニューをつくってくださっています。「あぐりいといがわ」や「糸魚川」という言葉が入ったメニューの売れ行きや、お客様からの反応はいかがでしたか?

「顔の見える野菜」というのは最近珍しくありませんが、やはりメニュー名に明記されると安心感があるようで、お客様の関心も高い気がします。

意外だったのは、お客様から「私、糸魚川出身で!」とか「母方の親せきが糸魚川で」といったお声がけを結構いただけること。たとえば「松坂牛」みたいに地名のついたブランドが糸魚川にはあまりないので、お客様も「東京で糸魚川に出会えるなんて」と驚かれるそうです。会話のきっかけが生まれて僕自身もうれしいし、「糸魚川の農場にも行ったんですよ」と話すと、さらによろこんでくださいます。

 

料理人には、心を込めて育ててもらった食材を生かす責任がある


――こうやって顔が見える関係になれて、お互いにアイデアを交換できることがうれしいです。あぐりの農場に来てスタッフと接したことで、宮内さんご自身に変化はありましたか?

作物が届くたび、料理をするたびにみなさんの顔が浮かぶんですよね。調理という最後の一瞬で、栽培にかかった数か月、土づくりや準備から考えれば途方もない年数と苦労を無駄にはできない。みなさんに感謝して、みなさんの心を料理に乗せられるよう、一層真剣につくらなければと感じさせられます。

また、メニュー名に「あぐりいといがわ」、「糸魚川」と社名や地名を入れているのでなおさら。「糸魚川のものって大したことないんだ」なんてお客様に思わせたら、青木さんたちに合わせる顔がない。素晴らしい素材を使わせてもらっているんだから、その魅力を最大限に生かした料理にしたいと思っています。




――ありがたいお言葉をいただき、胸がいっぱいになります。わたしたちも、心のこもった料理を噛みしめて食べようと改めて思いました。

こだわりの農産物を使うのは僕のこだわりで、お客様に「こだわってるんだから、ありがたがって食べてほしい」ということでは全くありません。僕の役割は、お客様に「美味しい」と感じてもらえる料理をつくること。長々説明することなく、料理そのものから生産者さんの想いが伝わったり、「糸魚川の食材は美味しい」と感じてもらえたなら、最高です。

 

深まるつながりが対話を生み、挑戦を続ける原動力になる


――ありがとうございます。では最後に、宮内さんが今後挑戦したいことや、あぐりいといがわと一緒に取り組んでみたいことがあれば教えていただけますか?

料理人として食材の旬は大事にしたいので、あぐりさんのトマトも旬の時期にめいっぱい使っていきたいと思います。あと、いつも驚くほど立派なトマトを送っていただきますが、傷がついたり、大きく育たなかったトマトなどは販売しないんですか? 最近、食品ロスの削減は課題になっています。傷物でも味は変わらないと思うので、ぜひソースに使ったりしたいです。

――傷があると、ダンボール内で潰れやすく、輸送に耐えられるかという問題が出てくるんです。つくり手としては、すべてA品と呼ばれる立派な作物にしたいし、傷がついたり育ちが悪いB品を減らそうと努力しています。ただ、フードロスの削減という課題は認識しているので、捨てる以外に方法がなくなったB品の活用方法は料理人の皆さんと一緒に探していきたいです。

ありがとうございます。お互いに無理はせず、でも一緒にチャレンジできるフィールドを拡げていきたいですね。

私は、青木さんとあぐりのスタッフさんに出会って糸魚川という土地とご縁ができました。食材を卸してもらうだけという関係性はもう超えた気がして、そのつながりは料理の魅力を高めるだけでなく、自分の人生も豊かにしてくれます。

僕にとって意味のある「糸魚川産」の食材を使った料理。それを食べたお客様が、糸魚川に関心を持ってくれたら単純にうれしいし、その方の人生もきっと豊かになるのではないかと思います。これからも、よろしくお願いします。

 
トマトという食材を通じて得られたつながりは、素敵な宝物になりました

編集後記

「栽培にかかった数ヶ月、土づくりや準備から考えたら途方もない年数と苦労を無駄にしてしまう、そんな申し訳ないことはできない」食材に真摯に向き合い、わたしたち生産者にまで思いを馳せてくださる。わたしたちが日々流す汗が報われたような気がして、込み上げてくるものがありました。そして何より印象的で嬉しかったのは「食材を卸してもらうだけという関係性はもう超えた。そのつながりは人生を豊かにしてくれるもの」という言葉。

食材をつくるという仕事が、ひとときの「美味しい」にととまらず人生まで豊かにしてくれるつながりを生み出すものである、という新たな気づきをいただきました。これからの毎日をより一層誠心誠意励み、この関係性をいつまでも続け、そしてもっともっと増やしていきたいと思います。


某テレビ情報誌の表紙を飾るアイドル……感?!

 

フォトギャラリー


初体験の稲刈り、楽しそう!


きゅうりの赤ちゃんにも興味津々!

 

ぶどうの摘粒(間引き作業)にも挑戦!



こちらも大人気の、こだわり卵のプリン。マンゴーのせスペシャルバージョン。



素敵な笑顔でお待ちしております。