米づくり 八十八のこと その44 電気柵設置 イノシシとの闘い

米づくり 八十八のこと その44 電気柵設置 イノシシとの闘い

「米」という漢字は、ばらばらにすると「八・十・八」の文字からできているように見えます。米を育てるには88の手間がかかることからこの文字ができた、とも言われています。
今回は、獣害、イノシシの被害から稲を守るための設備、電気柵についてのお話しです。

掘り起しやぬたうち 売り物にできなくなる米

数年前から急激に増えた獣害。稲の場合は、イノシシによる被害が特に深刻です。
イノシシが餌を求めて土を掘り起すことでの畦畔(あぜ道)や農道法面(農道の斜面)などの崩壊はもちろん、最もつらいのは、彼らが体表の寄生虫を落としたり、体温調節のために行う「ぬたうち」による稲の倒伏です。稲が倒伏すると収穫が困難になりますし、なんとか刈り取れても、ダニや寄生虫、獣臭がつけば売り物にはできません。

イノシシが侵入した田んぼ。不規則に倒伏している。

拡大するとこんな感じに。収穫できそうには見えるが……。

電気柵の設置 イノシシの侵入を防ぐ

わたしたちは、イノシシの田んぼ侵入を防ぐため、「電気柵(電柵)」を設置しています。
構造はいたってシンプル。ソーラーバッテリーから電線に電気を流し、電線に触れたイノシシに電気ショックを与えます。設置には、特別な知識や技術も不要です。

電線と支柱のほんの一部。リールは50個以上。

ソーラーバッテリー。表面は真南に向けて。

裏面の操作パネル。しっかり通電してるかのチェックも必須。

設置は簡単だけど、重労働 

しかし、設置がすべて人の手というのが弱ってしまう。

約30haの農地を囲む電柵の長さは、箱根駅伝で例えれば、鶴見中継所から権太坂までとほぼ同じ15km。設置する支柱は3,000本強。毎年7月中旬、4~5人で3、4日かけて支柱を差し込み、電線をクリップに留めながら15kmを歩き切ることになります。

意外に重いリールを2個。2段分を同時に張っていく。

電線をクリップに留める。3,000本を2か所ずつ。果てしない……。


山間部の農地での電柵設置は、障害物だらけのトレッキング。米の収穫後には、電柵撤去が待っています。2m以上積雪のある市野々では、電線も支柱も常設できないからです。

加えて、電柵周辺の下草刈りが発生します。雑草が電線に触れると漏電し、ショックが微弱になってイノシシが強硬突破できてしまうのです……。いや、下草刈りを考えるだけで憂うつになります(苦笑)。

憂うつになる理由は明白で、資材費と人手をかけて電気柵を設置しても、より美味しい米ができるわけでも、収穫量が増えるわけでもないことです。米づくりにかかる88の手間の中で唯一、マイナスをゼロにするだけの電柵にかかわる作業は、正直モチベーションが上がりません。

ただ立つだけでも大変な傾斜に支柱を差し込んでいく。

支柱を抱えながらの差し込み作業。力を込めてぎゅっと。


新たな方法を模索し続けて イノシシに打ち克つ

今は、米づくりに欠かせないプロセスだと感じて電柵設置を続けていますが、人手の省エネはもちろん、電柵とは全く違う方法を考え続けることも私たちの使命です。電柵設置が、農業を諦める一因にならないように。そして、子や孫たちに「米づくりは大変なことだけじゃない。こんなに魅力があるんだよ」と自信をもって引き継いでいけるように、知恵を絞っていきます。

いつか革新的な方法でイノシシとの闘いに終止符を打つ日を夢見ながら、今回のお話は終わりにします。


やり終えた安堵感で穏やかな笑顔。そこはかとなく漂う勇者感。


フォトギャラリー


イノシシの鼻先が電線に触れるように高さを調節。


事前に草を刈っておいた斜面を登る。


太いコーナー用支柱は、なかなか差し込めない。


絡まないように、上下段間違えないように。


立ったりしゃがんだり、腰をかがめたり。


道端で見つけた天然スイーツでホッと一息。


哀愁漂う?!男の背中。