米づくり 88の手間 その52 乾燥・調製作業 米農家が迎える緊張のとき そのわけとは

米づくり 88の手間 その52 乾燥・調製作業 米農家が迎える緊張のとき そのわけとは

 「米」という漢字は、ばらばらにすると「八・十・八」の文字からできているように見えます。米を育てるには88の手間がかかることからこの文字ができた、とも言われています。
今回は、米づくり大詰めの作業、乾燥・調製作業についてのお話しです。

乾燥・調製作業とは「マイナス」していくこと

無事に収穫まで辿り着いた米づくりは、乾燥・調製作業で佳境に入ります。
収穫直後の生籾(なまもみ=もみ殻がついた状態の米)は水分量が24~25%程度あり、カビなどが発生するため長期保存ができません。
そこで「穀物乾燥機」を使い、一晩かけて水分量が14~15%程度になるまで乾燥させます。乾燥機は、灯油を熱源にして温風をだすことで中の穀物を乾燥させるもの、いわば巨大なファンヒーターです。

乾燥が終わった籾。これからもみ殻を取り外され選別へ。

一晩かけて乾燥された籾(もみ)は、もみ殻を取り除き玄米となって袋詰めされ、穀物検査を受けたのちに、お客様にお届けできる状態になります。
この一連の流れが、調製、一般的には「籾摺り(もみすり)」と呼ばれる作業です。そして、米農家にとっては一年間で最もドキドキする作業でもあります。
その理由は、米づくりにおいて食味と並んで最も重要なポイントとなる「収穫量と品質」が目に見えて分かる瞬間だからです。

米の収穫量や品質は天候などに左右されて、その年により変動します。稲の状態や収穫作業中の籾の量などで、作況はある程度推測できますが、あくまで「見た目」だけのことです。いざ、ふたを開けてみたら「今年は全然ダメだった」なんてこともよくあることです。それというのも、この籾すり作業は「マイナスする(選別)」作業だからです。選別で取り除かれた米は、残念ながら主食用としての商品にはなりません。
お客様に喜んでいただけるお米を届けるために、選別は妥協できません。自ら決めた基準に満たないものは、涙をのんでマイナスを積み重ねていかなければなりません。

選別された玄米。お客様に喜んでいただけるように、自ら厳しさを課しています。

選別開始 まずは粒の大きさで

籾すり作業には、粗選別、籾すり、石抜き、無計量選別、色彩選別、計量選別と6つの工程があります。大きなゴミを取り除き(粗選別)、もみ殻を外し(籾すり)、小さな石やホコリを取り除きます(石抜き)。そしてここから、本格的な選別です。まずは無計量選別で基準以下(1.8mm)の粒を取り除きます。他の作物と同じように米粒も、成長度合いに個体差が生じます。大きくなれずにここで選別された米は屑米(いりご)と呼ばれ、主に家畜の飼料などで使用されます。

写真の左側から右側へ、順番に機械へ通していきます。

色でも選別 色彩選別機

前段階では大きさで選別しましたが、次は色で選別します。
一般的に、健全な玄米は半透明の茶色ですが、未熟な粒や高温の影響をうけた粒、カメムシ被害を受けた粒などは青、緑、白、黒などに変色してしまいます。この着色粒をセンサーで感知し、一粒一粒エアーで狙い撃ちにするのが色彩選別機です。

色彩選別機。大量に流れる米粒の中から見事に狙いを定める。

最後に、基準以上の大きさ(1.85mm以上)の粒を選別して30kg入りの袋に詰めて(計量選別)、籾すり作業の終了です。

何段階にも分けて選別を行うのは、より精度の高い選別をするためですが、屑米や着色粒が多いと機械が処理しきれずに、混入してしまうことがあります。その場合はどこかの時点からもう一度選別し直すということも。二度手間になり、新たにマイナスが発生してしまうのは承知のうえですが、お客さまにお届けする品質を保つためには必要な作業です。

選別されたお米をいれる袋が5つも。細かく選別します。


取り除かれた屑米(いりご)。大きさや色も形もバラバラです。

「マイナス」を最小限に

こうして出来上がった30kg入りの袋の総量が、その年の収穫量として確定します。総量を作付け面積で割り返し、単位当たり(1反歩=10a)の収穫量を算出したものが、〇俵/反(反〇俵)と農家が呼ぶ通信簿で、その結果で一喜一憂する、というわけです。

米に限らず、自然の中で育まれる農作物は、自然の力を大きく受けます。決して恵みだけではないその力により、悪影響を受けることもままあります。その結果、「選別」という作業が生じ、「マイナス」が生まれてしまいます。この「マイナス」をいかにして最小限にとどめるかということが、私たちが日々田畑に向き合う理由のひとつかもしれません。創意工夫の積み重ねである今の農業ですが、創意工夫に終わりはありません。
「いりご(屑米)ゼロ」を目指して、手と身体と、そして頭を使い、更なる創意工夫を積み重ねていきます。


商品となるお米。米が詰められて膨らんでいく袋を見ることで苦労が報われます。

フォトギャラリー


これが乾燥機。2台で7.5トン入ります。


2階にある籾貯め場。いよいよ籾すりスタートです。


籾貯め場から下に下ろし、まずは大きなゴミを取り除きます。


次にもみ殻を取り外します。


取り外されたもみ殻は外に排出され、大きな大きな山となります。まだまだ序の口です。


ブルブルと振動させて小さな石やホコリを落とします。


選別された屑米(いりご)も貴重な資源。主食用以外の用途で役立ちます。


さあ、何等米でしょう?


30kgの米袋を、腰を曲げずに持ち上げられる優れもの。


その名も楽だ君......たしかに、ラクダ(笑)

 
ほどけないように丁寧に結びます。結び方は、意外に難しい。


お、お、おもたーい。早くシャッター押して!


選別用の網。無機質だけど美しい。


2.0mm用の選別網。この網目からこぼれるものが屑米です。


素敵な笑顔......通信簿はよかったのかな?(笑)