農業はサイエンスだ!

農業はサイエンスだ!

農業は作物をそだてることが仕事。では、農業をするうえで必要な能力とは、なんでしょうか。
体力や忍耐力はもちろん観察力や判断力などなど、どれも大事な能力です。なかでも最も必要なものは「サイエンス(生物学)」の素養だと感じています(何をいまさら())。

作物の生理メカニズムを理解することが大事

日々、作物の生育を観察して必要な管理を行う農業。この時期にはこの作業、この生育ステージではこの管理といった具合に、どんな作物にもある程度の目安になる教科書があり、家庭菜園や慣れていない人でも取り組みやすいですよね。そして慣れれば慣れるほど、より上手になっていく。でも、こんな経験はありませんか。「イメージしたものが採れない。あの人がつくったものの方が美味しい。」

それは、「作物(生物)のメカニズム(生理)の理解度」の差、すなわち「サイエンスの素養」の差ではないでしょうか。私たちプロ農家同士でもその差は存在します。

農業歴40年以上の私たちの米の師匠は、水不足の年でも、長雨の年でも、一定の品質と収穫量を維持するテクニックを持っています。長年積み重ねた経験知が、米の生理に適っているのでしょう(理論を理解しているかは不明です())。平時はともかく、猛暑をはじめとする気象の急激な変化にはその差が顕著に表れます。

高温障害により裂果したトマト


猛暑による作物への影響

「高温障害」といわれる生理障害があります。作物が育つ適温を超えると健全な生育ができなくなるものです。米では白濁・胴割粒の発生、ぶどうでは縮果・着色不良、トマトでは裂果や着色不良など。ほとんどが直射日光の強さと水の需給均衡が崩れることが原因です。直射日光を遮る、水分を潤沢に供給することができれば障害を抑制することが可能ですが、物理的・経済的に困難な場合も多々あります。また、日照不足・水分過剰により他の弊害も考えられます。(いい塩梅にするのがプロ、なのでしょうが()

そこで必要になるのがサイエンス。作物ごとのメカニズムに立ちかえって考えることが重要です。温度が直接作用して障害を起こすのではなく、高温によりメカニズムの一部が壊れることで障害が発生する。このメカニズムを補正することで障害を抑制することが可能です。

環状剥皮でぶどうの着色を促進

ぶどうの場合、高温は粒の着色に影響を及ぼします。色の成分であるアントシアニンの合成が阻害され黒や紫、赤など本来の着色に至らない障害が起こります。対処法として、温度上昇を抑えるのではなく生理を補正してあげる「環状剝皮(かんじょうはくひ)」という技術があります。ぶどうの樹は水分や養分を、根から上部へ送る管と葉っぱや枝から下部へ送る管とがあります(人間でいう動脈と静脈でしょうか)。色成分は葉っぱなど上部で作られますが、果実だけではなく管を通して下部へも流れていきます。せっかくできた色成分を上部に留めて無駄なく果実に集中させるために、樹の幹回りを輪っか状(環状)にぐるっと一周皮を剥いで(剥皮)、表面付近の管を遮断することで下部への流れを防ぎます。ぶどうの生理を巧みに利用した技術は、まさにサイエンス。十分な実績がありますが、割とコツもいるし手間もかかるし……できればやりたくないです()

環状剥皮。以外に難しい。

自然の恵みだけではない

作物の特性に従ったり逆手に取ったり、褒めたりいじめたり、思い描く理想の実りを実現するために作物をコントロールすることが農業。そのためには作物の生理、メカニズムを理解することが必要不可欠です。作物を育てるうえで日光や土や水、自然の恵みはもちろん欠かせませんが、決して「自然の産物」ではありません。田んぼや畑という、人が手をかけて作り上げた人工物のなかで、創意工夫を凝らし、ときに自然に抗って、手をかけて育てあげた作物もまた「人工物」と言えるのではないでしょうか。

地球沸騰化時代と言われる昨今ですが、決して気象や環境を言い訳にせず、常に品質のよい作物を作り続けることが、私たちの作物を心待ちにしてくださるお客さまへの責任だと肝に銘じています。生物学を理解し、糸魚川の地に適した、この地だからこその栽培を目指していきます。


フォトギャラリー

着色不良からの裂果。
 
尻ぐされ果。主に水分不足で発生。

着色不良の巨峰。

日焼け(火傷)したかぼちゃ。

暑すぎると発芽しないレタスを室温調整で発芽。このあと土に種まき。