人が人を連れてくる~夏の奇跡~
この夏、あぐりいといがわはひときわ賑やかでした。主役は学生たち。中学生から大学生まで、それぞれが稲刈り体験やインターンシップで汗を流し、思い出深い夏休みを過ごしました。インターンシップでは、延べ3週間、4名の東京農業大学生が訪れました。炎天下でのハードな農作業も、空調服とタオルを相棒に黙々と取り組みました。大学では学べない(?)農業を肌で感じ、新たな視点で農業を考える機会になったようです。私たちにとっても「お互いを知る」ことの大切さに気づかせてくれる貴重な時間でした。学生からの「ゲストスピーカーに、ぜひ!」のひと言に、すっかりその気になってしまいました!中高生が挑んだ稲刈り体験では、キラキラの眼で鎌をふるい、ドキドキしながらコンバインを操り、慣れた頃には「もう1回!」とおかわりする彼らの無邪気さに思わず頬が緩みます。ところが、最終日の振り返りワークショップでは、大人顔負けの意見が続出で、予想以上の展開に。しっかりと「いのちのみなもと」を学んでくれたようです。それに一役買ってくれたのが、夏旅OGで高校3年生の彼女。大人しい彼らを引っ張ってくれました。海外留学から帰国後、ひと月半糸魚川で暮らした彼女は、自身が心動かされた農業と糸魚川を、もっと多くの人に知ってほしいと、たくさんの友人知人、ご両親を糸魚川に連れてきてくれました。ひと月に2回もやってくる猛者まで現れ、てんやわんやの忙しさでしたが、疲れた身体以上に、充実感に満ちた夏でした。こうして、人と人のつながりが新たなつながりを生み、農業と糸魚川の未来を支えていく。その実感を、この夏もまたひとつ重ねることができました。ここで出会ったすべての人に、心から感謝します。

稲刈り体験の中高生。無邪気さから一転……翌日は。
その農作物の価格は?
糸魚川市から、渇水や干ばつ対策事業が発表されるほどの過酷な夏を乗り越えて、なんとか実りの秋を迎えた糸魚川。これから本格的な稲刈りシーズンに突入します。過酷な夏と米作りの結果は、すべての収穫が終わってから振り返ることにして、米作りの裏で今年も進めている「市野々ニンジン2万本計画」についてお伝えします。ニンジン栽培は、「発芽が揃えば8割は成功」と言われるほど、発芽が非常に難しい作物です。適正な発芽条件は15~25℃、適度な水分量を保つことが不可欠で、35℃以上の高温や過度な乾燥・多湿は発芽不良の原因になるとされています。ところが、私たちが種まきを始めた6月20日以降の最高気温は連日30℃以上、地面の温度は35℃を超えることもありました。発芽しても強い日差しと乾燥、さらにはイモムシにかじられ、枯れてしまう。1本でも多く収穫できるようにと、タンクに汲んだ水を撒き、イモムシを見つけては捕殺する。その道のりは、まさに生き残りをかけたサバイバルレースです。そして9月。先日ついに初収穫を迎えることができました。6月からの約3ヶ月を耐え抜いて収穫できたニンジンですが、皆さんは1本いくらなら買いたいと思いますか?正直なところ、私たちにも明確な答えはありません。実際の販売価格は、ほかのニンジンと同じくらいの設定にしています。けれど、私たちは確信しています。市野々のニンジンには、その価格以上の価値があると。過酷な自然環境を生き抜いた作物、そしてそれを育てた生産者への敬意が、適正な価格というかたちで評価されていくことを願いつつ、私も1人の消費者として「ありがとう」の気持ちを忘れず、耕作を続けてまいります。

ニンジン1本……さあ、いくら?
米作りウラ話し「無限苗箱洗い」
「苗箱」。稲の苗を育てるための育苗専用容器です。米作りでは、苗箱に「種もみ」を蒔いて田んぼに植えられる苗になるまで育てます。ということは、苗箱は、田植えが始まると同時にその役目を終えるのです。さあ、勘のいい方はもうお気づきですね。田植え後に待っているのは、苗箱を一枚ずつ洗浄する作業です。何年も繰り返し使う苗箱は、使い終わったらきれいに洗う必要があります。汚れたままだと翌年の育苗で苗が病気になってしまうなどのリスクがあり、苗箱洗いは大切な作業です。では、どれほどの枚数を洗うのか。苗箱一枚で育つ苗の量は、田んぼ約60平方メートル分。私たちが耕す田んぼの面積は約22万平方メートル。苗箱の枚数は約3700枚。ひえ~。(恐怖!)途方もない数ですね。年によって前後しますが、このとんでもない枚数の苗箱を一枚一枚、機械や手作業で洗います。空き時間を見つけては洗う。雨の日にテントを張って洗う。ほかの作業の合間を見ながら少しずつ洗い進めます。総枚数3700枚という驚異。どれだけ洗っても終わりが見えてこないので、私はこれを「無限苗箱洗い」と命名しました。コツコツ洗っていればいつか終わりはやってきますが、それはまだまだ先になりそうです。今日も、作業の合間を見つけたスタッフたちが苗箱を綺麗にしていきます。米作り、田んぼの外でもたくさんの仕事があります。

減らない苗箱の絶壁
編集後記
今年の夏も本当に暑かったですね。毎日出される熱中症アラート。恵みの雨も降らず、枯れていく作物。節水を余儀なくされる地域もありました。寝苦しい夜は、一晩中クーラーをつけっぱなしで乗り切るしかない夏でした。夏休み中に来てくれた職場体験の中学生、インターンの大学生も、きつくて大変だったと思います。それでも、皆さんが農作業に真剣に取り組む姿に、スタッフ一同パワーをもらいました。本当にありがとうございました!(山内)
