あぐり通信 Vol.27(2026.03.13)
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春よ、来い
茨城県出身の私にとって、春はどこか乾いた季節でした。強い風が吹き、花粉が舞い、少し埃っぽい空気に包まれる――そんなイメージが心に残っています。芽吹きの喜びよりも、どこか落ち着かない感覚のほうが先に立つ、それが私の中の「春」でした。
糸魚川へ移住し、農業に携わるようになってから、その印象は大きく変わりました。雪に覆われた田畑を前に、「早く雪が解けて暖かくなってほしい」と願う気持ちが自然と湧き上がるようになったのです。作物を育てる者にとって、春は待ち望むもの。まさに「春よ来い、早く来い」という童謡の一節そのものでした。
童謡「春よ来い」の作詞を手がけたのは、糸魚川出身の相馬御風です。数多くの童謡や校歌を世に送り出した御風は、今もなおこの地域で親しまれています。市内の学校では、その生涯を題材にした発表が行われ、音楽祭では御風作詞の歌が響きます。夕方の時報に流れるのも御風の作品です。糸魚川の暮らしに、さりげなくその言葉が息づいています。今年、御風を題材にした映画『ふるさとへ還るとき―相馬御風を訪ねて』の制作が始まりました。糸魚川を舞台に、地元出身の俳優が主演を務めるこの作品は、地域の魅力を新たな形で伝えてくれることでしょう。
さて、今年の雪解けは昨年よりも少し早いようです。2月にまいた種はスクスクと育ち、ぶどうの枝の切口からは樹液がしたたり始めました。植物たちはすでに春を感じとっています。トマトを植えるためのくん炭培地を整えて、稲の苗を育てるハウスを組み立てて、いよいよ新しいシーズンの幕開けです。
待ちわびた春を迎える喜びは、この糸魚川の風土の中で育まれていきます。これからも糸魚川の四季と歩む私たちの取り組みを、温かく見守っていただければ幸いです。
開き始めた梅の花に、春を感じます。
ヒスイを拾うために……
私は大阪市出身で、2017年に糸魚川へ移住しました。きっかけは「ヒスイ」。美しさに魅せられました。
約5億年前に誕生したヒスイは、長い年月をかけて山から川を流れ、やがて海へ辿り着き、今こうして手元にある。そんな壮大なロマンにも胸が熱くなります。
休日はほぼ毎週、海岸でヒスイ探しです。私の生きがいです。波の高い日は自宅で、お気に入りのコレクションを眺めてはニヤニヤして過ごすのが至福の時間です。収集した石は400個以上、中には15万円もの大金を払って購入したものまであり、自分でも「気合入ってるなぁ」と思っています。
移住前は、当時住んでいた山梨から片道3時間以上かけて、2か月に1回のペースで糸魚川に通っていました。もちろん「ヒスイ探しのためだけ」です。仕事よりもヒスイ探し優先、そんな日々を約5年間送っていましたが、「毎日探したい」という思いから移住を決めました。移住当初は借家住まいでしたが、糸魚川に骨を埋めるつもりで、2023年、ついに家まで購入してしまいました。
購入した家から海までは車で10分ほどで、思い立ったらすぐに海です。日の出の早い夏などは、仕事前にちょっと……なんてことまで。市内の色々な海岸を渡り歩いて、時間も気にせず思う存分ヒスイを探せるとは、なんて贅沢なことか。移住してよかったと、心から思っています。住んだからこそ感じる糸魚川の魅力は、まだまだたくさんあり、移住から9年経った今でも、毎日が新鮮です。
今回初めて参加したあぐり通信。担当している米づくりの様子や糸魚川の魅力など、大阪育ちの目線でお伝えしていきます。これからのあぐり通信も「いちのまい」と一緒にお楽しみください。
私。ヒスイ探しの装備はガチ勢です。
ヒスイが結ぶ、人との縁
私は週末も糸魚川を楽しんでいます。もちろん、ヒスイ探しです。日の出から日暮れまで、時間を忘れて海岸を歩きます。
ここ5~6年で、ヒスイを求めて浜辺を訪れる人が多くなったと感じています。鉱物好きとしてはとても嬉しいことです。人が増えれば自然と交流も生まれます。石好き同士で語り合う時間も楽しみの一つです。フォッサマグナの影響で多様な鉱物に出会える糸魚川には、多くの石好きが集まります。毎週海岸にいる私に、声をかけてくださる方が多いです。もちろん、私からも声をかけることがあります。相手の方よりも、手にした石に興味があってのことですが(笑)。
お互いが好きなものの話で盛り上がらないはずはありません。コレクションの自慢に始まり、鉱物の知識、糸魚川の魅力まで……時間を忘れて熱く語り合います。ヒスイに魅せられて十数年の間に、鉱物のコレクションとともに、特に気の合う仲間たちも増えました。海の幸や鍋を肴に、夜通し語ることもしばしばです。趣味も持たずに仕事だけしていたら、出会うことのなかった人たちです。
その縁をつくってくれたのが小さなヒスイだと思うと、不思議な感覚です。古代から、ヒスイの勾玉は魔除け厄除けの霊力をもつとされてきたそうです。まさか人の繋がりをつくる効力まであると、古代の人は知っていたのでしょうか。最近では、「聖なる石」として古代から珍重されてきたラピスラズリが、アフガニスタン以外では初めて糸魚川で発見され、大きな話題になりました。
これを機により多くの鉱物ファンが訪れ、石を通じた交流がもっと盛り上がることを願っています。浜辺でお待ちしています!
大きな繋がりをつくってくれました。
編集後記
立春から1カ月余り。春はまだ遠いのか、今日もチラチラと雪が舞っています。節分の鬼退治は終わったはずなのに、わが社ではあぐり通信の鬼編集長が居座っています。編集に悩むメンバーたちですが、そのおかげで国語力は確実にアップしているようです。ちなみに私は第27号にして初登場です。(森山)