「リアルな農業を体験させたい」から始まった夏旅
2022年8月26日からの3日間、「いのちのみなもとに触れる夏旅」と題した農業体験を行いました。昨年はコロナ禍によって中止された「夏旅」。まず、開催できたことをうれしく思います。
「夏旅」が始まったきっかけは、ある方から「中高生を対象に、コンバインを使ったリアルな稲刈りを体験させたい」とご相談いただいたことでした。ある方とは、(社)One Step for the Future 代表の山本享さん。東京の中高一貫校、聖学院中学校・高等学校の先生という顔もお持ちです。
夏旅のきっかけとなった一枚。体験内容をお話ししたことから企画がスタート。
聖学院と糸魚川との縁は深く、聖学院中学校の生徒さんは修学旅行として糸魚川を訪れ、3泊4日の「農村体験」を行っています。36年間続く「農村体験」は「普段食べているお米のつくり方を知ってほしい」という学校の想いから始まったそうで、宿泊先はホテルではなく農村の一般家庭。生徒さんは、農家でのホームステイと、泥だらけになりながらの田植え体験を通し、お米が育つ土地、糸魚川で暮らす人々への親しみを感じ、農業が直面する課題を身近なものと捉えてくれています。
しかし、コロナ禍で「農村体験」の中止が続き、聖学院のみなさんと顔を合わせる交流は途絶えてしまいました。そんな中でも、糸魚川や農業に思い入れのある中高生や卒業生がいると知った山本先生が希望者を募り、「リアルな農村体験をさせたい」と相談してくださったのです。
毎年行われていた田植え体験では素足での手植え。
創意工夫の積み重ねである今の農業に触れてほしい
「リアルな」という部分が、あぐりいといがわの農業体験の特徴です。
聖学院の生徒さんが体験してきた「農村体験」では、素足で田んぼに入って、苗を手で植えます。収穫時は、鎌を使って一株一株手で刈り取っていきます。しかし、そのような手作業を続ける農家さんは、今となってはごく一部。現在は、田植えは田植え機、収穫はコンバイン等の農業機械をフル活用して作業に取り組んでいます。
言葉を選ばずに言えば、農作業を非日常の「アトラクション」と捉えるのであれば、泥だらけになっての田植えも魅力的です。それでも、持続可能な農業を目指すわたしたちが、取り入れてきた工夫を知ってほしい。創意工夫の積み重ねである今の農業に、できるなら関心を持ってほしい。わたしたちはそう願い、農業機械も使った「リアルな農業」に触れていただきたいと考えています。
稲刈り体験では、コンバインを運転していただいています。
「農業とは何か、なぜ農業を続けるのか」を伝えたい
「リアル」にこだわるわたしたちの想いに共感してくださった山本先生とともに「夏旅」の企画を進める中、わたしたちはもうひとつ条件を出させていただきました。
農業体験をスタートする前に、「農業とはどんな仕事か」という話をさせてほしい。
あぐりいといがわが農業を始めたきっかけは、「いのちとこの地をおいしくはぐくむ」という言葉に集約されています。
農業は、人々の命のみなもと、生命維持産業です。あぐりいといがわは、まず自分たちの身近な人、地域に暮らす人、理念に共感してくれたみなさんの命をつなぐために作物を育てています。食料自給率が40%を切る日本が、食料を輸入できなくなる事態に見舞われても、身近で食べ物をつくっていれば生きのびられる。
そして、農業は国土の保全にもつながる仕事。農業をあきらめ、耕作放棄地が増え続けると、土地はあっという間に荒れ、土砂崩れなどの災害に見舞われる可能性が高まります。集落を支えるインフラも、農業を辞めた途端に維持できなくなり、人が暮らす場所ではなくなります。
私たちが残していきたい市野々集落。この地で、いのちのみなもとをはぐくむ。
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わたしたちは、農業を続けていくことで大切な人たちの命をつなぎ、先祖代々の農地を守りたい。その一心で、農作業に取り組んでいる。「いのちとこの地をおいしくはぐくむ」農業を続けるために、日々工夫を重ねている。そのことを伝えたかったのです。
これまで、農業と縁遠かった中高生に伝わるかは、正直わからない。
それでも、あぐりいといがわが農業を続ける意味を知った後に触れる農業は、少し見え方が変わるのではと思ったのです。
「農業とは何か」を次世代に伝えたい 農業体験「いのちのみなもとに触れる夏旅」後編 はこちら。