「日本には、まだまだ驚くほど魅力あふれる地域があります。」こんな、心を揺さぶられるメッセージで始まる「おてつたび」を知ったのは2022年の秋でした。
(「おてつたび」とは「お手伝い」と「旅」を掛け合わせた造語で、人手不足で困っている地域と、地域で働きたい旅人を繋ぐサービスです)
ファンを増やすには
「いのちとこの地をおいしくはぐくむ」をポリシーに、農業を通じて想いをともにしてくださる「糸魚川のファン、あぐりいといがわのファン」を増やしていきたい私たちは、農業や地域の魅力をどのように発信したらよいかを模索していました。
今の時代、WebサイトやSNSを使った発信が当たり前になり、日本中の魅力に溢れた地域の情報に手軽に、大量に触れることができます。それらの情報は日本の食や自然、文化の豊かさを物語る反面、その数の多さから目に留めてもらうことすら難しいのが現状です。
あぐりいといがわが米を育てる市野々集落。山あいのオアシスは喧騒とは無縁。
来てもらうためのオンリーワンな目的を提供
魅力や想いを直接伝えることは大切なことですが、糸魚川のファン、あぐりいといがわのファンづくりのためには、まずは「糸魚川に来てもらうこと」「来てもらうための目的を提供すること」が大切なのではないかと考えるようになりました。
その仮説は、長野県や岩手県へ移住したりインターンをしている方と出会って、真理ではないかと感じられたのです。
彼らの共通点は、初めてその地を訪れるきっかけが、必ずしもドラマチックではない、ということでした。「赴任先がここだったから」「募集がここしかなかったから」という、半ば「仕方なく」的なきっかけがほとんど。「その地域ありき」ではなく「目的が最優先」であることを知りました。
私たちが提供できる「目的」はやはり農業。そこで、農家以外の方にとっては体験機会がほぼない農業機械の運転や、田植えや稲刈りといった農業のハイライトではなく、日常の地味な作業を体験できる「いつでもできる農業体験」を開始しました。ほかにも農業や山間地域の実情を学んでもらう学究的な体験、大学農学部のカリキュラム誘致なども積極的に動き出し、提供できる「目的」を増やしたのです。
中高生を対象に行った「いのちのみなもとに触れる夏旅」
そして、今回お話ししたかった、「おてつたび」との出会いが、さらに私たちの「ファンづくり」を後押ししてくれました。私たちが目指し、取り組み始めたことのすべてが「おてつたび」のサービスにありました。
知らない地域こそ面白い
「お手伝いをしながら知らない町へ旅に出よう。」
「おてつたび」は、新しい旅の形を提案するサービスです。
観光やレジャーを目的とした旅では訪れる機会が少ない地域でも、「お手伝い」という目的があれば気軽に出かけられる。作業をともにすることで、地域や地域の人に深く関われる。訪れてこそ感じる魅力や地域との触れ合いから見つけた気づきが重なり、お手伝いをした地域は、気づいたら自分の「特別な場所」になっていく……。
「おてつたび」が提案する「新しい旅の形」を知り、まさに、あぐりいといがわはこんな風にファンをつくりたかったんだ。と感じました。
また、「誰かの『特別』になった愛おしいほど魅力あふれる地域が日本中に広まってほしい」というおてつたび創業の理念にも共感しかありません。そこで、2023年5月、私たちの農作業を手伝い、地域に深くかかわってくれる「おてつびと(おてつたびの参加者)」の募集を決めました。
農業に想いをもつ「おてつびと」との出会い
今回募集した「おてつびと」にお願いするお手伝いは、すじまき(稲の種まき)作業。なかなかに地味な作業です。
「米作り 88の手間 その10 すじまき 稲の種まき」はこちら
応募はあるのか、不安だらけで募集を開始。……しかし数時間後、定員を遥かに超える応募があり、反響の大きさに驚きました。
20代から60代まで幅広い層の方からご応募いただき、全員に来ていただきたい思いでしたが、悩んだ末に、20代女性Kさんに参加していただくことにしました。
東京に生まれ育ち、観光業に携わるKさんは学生時代の体験から自給自足生活への憧れを感じたそうです。農業を体験したことのある友人から、「生産者や食べ物に対するイメージや価値観の変化、農業への興味が深まった」と聞き、ぜひ自分の目でリアルな農業に触れ、農家を身近に感じたいと、応募してくださいました。
農業の意義や山間地の農村の実情、農業に取り組む私たちの想いを伝えたかった私たちが、まさに来てほしいと願っていた人そのものでした。
控えめな笑顔が印象的なKさん。
おてつたびで繋がる縁
初日に糸魚川の町を案内し、翌日からすじまき作業、最終日にはいちのまいのふるさと、市野々へ案内して5日間の日程を終えました。
トップバッターの苗箱入れ。途切れることなく入れ続けます。
出来上がった苗箱を軽トラに積み上げる。一番汚れるポジション。
苗箱を育苗ハウス並べる。暑さとの闘い。
最終日、Kさんは素敵な笑顔であぐりいといがわのメンバーに向けて話してくれました。初日に見た日本海に沈む夕日に魅入られて、夕日を求めて連日自転車で走り回ったこと。文字通り目を丸くするほど美味しい海鮮を手軽にいただけること。お米とトマトジュースが最高に美味しかったこと。市野々を訪れてあぐりいといがわの想いを実感できたこと……。
東京に戻ったKさんからの「応援したい、もう一度行きたい地域となりました」というメッセージは、私たちにとって何よりのよろこびでした。
今回の「おてつたび」では、私たちも新たな気づきを得ることができました。
私たちの日常はとても贅沢であること、その豊かさに気づくには外からの目線を共有していただく必要があることです。
3万人を超える「おてつびと」が、日本各地の「知らない地域」との出会いを求めています。
まずは来てもらう。来てもらい、地域の魅力や農業のリアルを肌で感じてもらえれば、きっと想いは伝わるはず。
そう信じて、新たな「おてつびと」との出会いを楽しみにしています。
ともに作業をしたスタッフと。みんないい笑顔。
フォトギャラリー
教わりながらの慣れない作業にもかかわらず、真剣に取り組む姿が素敵でした。
分からないことも自らすすんで聞いてくださいました。
見た目以上に重い苗箱にも負けず……。
休憩中、飛び入り参加のパオラちゃんと。英語もペラペラなKさん。
「農業 格好」で検索して揃えた衣装は100点満点。
初日に見た夕日。つかみはオッケーでした(笑)。
ひなびた漁港で佇む。このあと、海鮮の美味しさに目を丸くする(笑)。
あぐりいといがわスタッフ全員と。また会いましょう。
おまけ。「おてつたび」のオフィスへお邪魔しました。引き続きよろしくお願いします!