米づくり 88の手間  その10 すじまき 稲の種まき

米づくり 88の手間  その10 すじまき 稲の種まき

「米」という漢字は、ばらばらにすると「八・十・八」の文字からできているように見えます。米を育てるには88の手間がかかることからこの字ができた、とも言われています。
今回は、稲の種まき「すじまき」と呼ばれる作業のお話しです。



すじまき終了後の苗箱。やがて発芽し、稲の苗となります。


すじまきとは 稲の種をまくこと

すじまきとは、苗をつくるために稲の種をまくこと。いわゆる「播種」にあたります。今回ブログを書くにあたり、ふと疑問に思いました。「なぜ、すじまきというのだろう」。
本来すじまきとは、種を線状、もしくは細い帯状に種を蒔く「条まき(すじまき)」のことを指し、種のまき方の呼称のひとつです。「稲の種をまく」こと自体を「すじまき」ということは一般的にないようです。では、なぜ「すじまき」と云うのか。

結論から云うと、よくわからない(笑)。

調べたところ、種もみのことを「すじ(スジ)」、稲の種まきのことを「すじまき」と呼ぶのは新潟県を含めた一部地域に限られるとのこと、そしてどうやら「すじ」は方言であることがわかりました(てっきり標準語だと思ってた)。「種子」→「しゅし」→「すず」→「すじ」と転じたらしいです(諸説あるようです)。


「種籾(たねもみ)」と呼ばれる稲の種。


なぜ苗をつくるのか 外的要因への抵抗力を養う

前置きが長くなりましたが、ここからが本題です。

先ほども述べましたが、すじまきとは稲の苗をつくるために種まきをすることです。できた苗は田植え機にのせて植付けしていく、という方法が一般的です。ここ数年、稲の栽培技術が進歩し、苗はつくらずに田んぼに直に種もみをまく(直播)方法なども普及し始めています。広大な農地をもつアメリカでは、なんと上空から飛行機で種もみをばらまくそうです。(アメリカ横断ウルトラクイズのようです()

ちょっと察しのいい方はお気づきでしょう。「なぜ苗をつくるのか、なぜ直に蒔かないのか」と。「苗をつくる」ということは種まきをし、ある程度成長するまで管理し、畑に植え直す(定植)ことが必要になります。植え直すくらいなら最初から畑に蒔けばいいではないか。仰るとおりです。種まき・植替えと明らかに二度手間です。ではなぜ二度手間を承知で苗をつくるのか。
それはまだ抵抗力の弱い幼植物を様々な外的要因から守るためです。いきなり厳しい自然環境に種まきをしても、天候や気温、害虫、雑草など様々な外的要因により、発芽しない、健全に生育できないといったリスクが考えられます。そこで、ビニルハウスなどの安定した環境下で、ある一定の生育ステージまで生育させることにより、自然環境への抵抗力を養うために苗をつくる、というわけです。また、生育度合いをそろえて実りの時期を均一にする、などの効果もあります。


苗箱のまかれた種もみ。この上に土を被せて発芽を待ちます。


作業開始 播種機を使った流れ作業

ほんとに、ここからが本題(笑)。すじまきについて説明していきます。

大まかな流れは、①苗箱に土(培土)を入れる→②水をかける→③種もみを蒔く→④土を被せる(覆土)となります。この一連の作業がコンベア状の機械「播種機(すじまき機)」によって行われます。この時ばかりは、人間はすじまき機の一部。機械の動きに合わせて土や種もみの補充、苗箱の出し入れを行う必要があります。手を止めると機械トラブルのもと、トイレに行くのも一苦労です(笑)。


播種機(すじまき機)とそれぞれの持ち場につくスタッフ。

あぐりいといがわでは、1シーズンに3,000枚程度の苗を、6回程度にわけてつくります。(「箱」であるのに数え方は箱ではなく枚、である謎)
平野部と山間部でわけるのはもちろん、田植えにかかる日数を考慮し、苗の成長具合がベストなタイミングで植付けられるように数日にわけています。

3,000枚という数は、決して多いというわけではなく、かといって少ないわけでもなく……。大掛かりな施設(フォークリフトやクレーン)を導入するには中途半端な規模のため、ある方に「20年前のやり方だね……」と皮肉られた方法で行っています。
何が20年前の方法かというと……手間と人力。

1回あたり500枚程度、6名の人員と5時間程度を要します。6名にはそれぞれの持ち場があり、その持ち場の特徴もそれぞれです。

まずは空箱をコンベアに流す係。
いたって単純な作業なのですが、隙間を開けずに箱をいれなければいけないため、襲い来る睡魔と戦いながらの数時間です。


単純作業からくる眠気と油断できない緊張感とたたかう。


次は培土の投入係。
20kg入りの袋を切っては投入、切っては投入の繰り返し。文字通り息つく暇もない、体力勝負の持ち場です。
3番目は覆土の投入係。
種もみのうえにうっすらと土を被せるところです。使用量が多くないので投入回数も少なく、鼻唄でも口ずさみながら行える比較的気楽な持ち場です。私が立候補するならここです()。唯一の難点は投入口が高い位置にあること。ギックリ腰に注意です。


培土の投入係。スタッフ中、一番活きがいい力持ちが担当です。


3番目、覆土の投入係。老練の知恵とテクニックでギックリ腰を回避。


4・5番目はできあがった苗箱を取り出し軽トラに積み上げる係。
私、一番やりたくないです(笑)。縁についた余分な土をぬぐい取り、軽トラにきれいに積み重ねる。取り遅れるとストッパーが作動し流れがとまり、トラブルのもとに。汚れ度合いはナンバー1です。


4番目。慣れた身のこなしで、汚れることはほぼないけれど……完全防備。

5番目。4番目のとの相性も重要な要素。息が合わないと……。


そして最後の6番目は監督席、種もみの投入係。
種もみを補充しながら全体に目を配り、効率的な作業となるようにコントロールします。種もみの脱水状況、山と積まれた苗箱の移動、現在の枚数、次の段取りなどなど、快調な作業のために最も重要な持ち場です。


もちろん、米づくりのBOSSが担当です。

一定の枚数が積み終わったところでコンベアをいったん止めて、できあがった苗箱を育苗ハウスに並べます。全員で協力して並べていきますが、意外に重いこと、水が滴り汚れること、並べるために立ったりしゃがんだりを繰り返すこと、結構な肉体労働です(腰や太腿の痛み、忘れた頃にやってくる歳になりました)。しかも失敗して落とそうものなら、一枚数百円の罰金まで要求される?作業です(笑)。

並べ終わったところで、保湿・保温のためのシートを被せて終了、発芽を待ちます。

きれいに積まないと荷崩れを。緻密さが要求されます。


まっすぐ揃えて並べることも大切です。


毛布と掛け布団をかけて、しばらく寝かせます。


この作業が始まると、春が来たという喜びとともに、「今年もいよいよ始まるな!」と身の引き締まる思いに駆られます。多くの人手と時間を要する作業。革新的な方法を探し続け省力化と効率化を図りながらも、楽しいおしゃべりや情報交換などができる貴重な時間として、大事にしていきたい作業のひとつです。

この後、発芽後にシートを外し、いよいよ苗づくりがスタートしていきますが、それはまた別のお話しで。


追伸:農業経験のない新入社員は、この作業をどう感じたのか……合わせてお読みください。
「米づくり 88の手間 番外編~入社間もない新人が経験したすじまきとは~」

 

フォトギャラリー


山と積まれた培土と覆土。定位置への搬入も人力(泣)。


こちらも山と積まれた苗箱。これで一回分……絶望感(笑)。


いっこうに減る気配がない……絶望感(笑)


苗箱に入った培土を均す刷毛ローラー。


種もみが落ちる量も調整可能な優れもの。


湿気のある種もみ。詰まりを解消する専用器具で突っつく……10年物の割り箸(笑)。


培土に十分水を含ませる。水圧が肝。


軽トラへの積み込み。緻密さが要求される。


こちらは種もみの山。数百倍のお米に生まれ変わる。


かわいい芽がのぞき始めてる。


ハウスに並ぶ苗箱。ハウスいっぱいになるにはまだまだ……絶望感(笑)。


協力してシートかけ。


毛布のあとは掛け布団。


風でまくられないように押さえをして完了。


みんなカッコいい!