「また食べたい」が聴きたくて探究する、クリエイティブな農業と料理

「また食べたい」が聴きたくて探究する、クリエイティブな農業と料理

◆対談 鶴来家 青木資甫子さん × あぐりいといがわ 青木 仁


あぐりいといがわが育てるお米「いちのまい」や、トマトやぶどうなどの農産物は、飲食店で腕を振るう、プロの料理人にも愛用いただいています。
今回は、「いちのまい」を長年使ってくださっている料亭「鶴来家」の料理人を務める青木資甫子(しほこ)さんと、あぐりいといがわの青木 仁との対談を行い、プロから見た「いちのまい」の魅力や、鶴来家とあぐりいといがわの信念についてなど、ダブル青木で幅広く語り合いました。

 

料理人として腕をふるう傍ら、和装でお客さまををもてなすこともある資甫子さん

糸魚川を代表する料亭「鶴来家」がつくり続けた「美味しく良いひととき」


青木 仁(以下、仁):
最初に、鶴来家の歴史について教えてください。


青木 資甫子(以下、資):鶴来家は、創業文化2年(1805年)の純日本料理店です。米問屋からはじまり、主に武家などの上流階級に愛されて200年以上続いてきました。明治11年の明治天皇北陸御巡幸の折りには、お献立をたてた記録があります。


仁:鶴来家さんは、糸魚川の人間にとってステータスを感じられるというか、特別なお店です。料亭文化、糸魚川の食文化を継承するお店が糸魚川に在ってくれてうれしいし、私がお客様をもてなしたいと思ったら、一番に思い浮かべます。そんなお店に「いちのまい」を使ってもらえることは誇らしいです。


資:ありがとうございます。帰りがけのお客様から「おなかいっぱいだったけど、最後のごはん美味しすぎて全部食べちゃった」というお言葉をよくいただきます。お米は別腹みたいですね(笑)。「このお米どこの?」と、2合パックを購入して帰られる方もいらっしゃいます。


仁:それは素直にうれしいです。長年、鶴来家さんがお客様から支持されてきた秘訣ってなんだと思われますか?


資:「鶴来家なら、きっといい時間にしてくれる」という信頼の積み重ねでしたらうれしいですね。ご要望をいただいたら、「断りたくない」となんとかしようともがくのが鶴来家らしさ。接待で使っていただく機会も多いので、おもてなしされる方に毎回同じお料理を出さないことも心がけています。

もうひとつは、「身体にやさしいお料理」という軸を守っているところかなと思います。父(鶴来家五代目 青木孝夫氏)は、添加物や加工食品を食べると「舌がしびれる」と言って、必要であれば調味料から手作りすることもあります。実際、術後で回復途中のお客様からは「鶴来家のお料理だけは負担なく食べられる」という言葉をいただきました。
「また来たい、また食べたい」と思っていただけて、自分たちも納得できる、安心・安全なお料理をお届けしたいと日々厨房に立っています。


仁:わたしたちが米づくりを教わった齊藤さんも、同じことをおっしゃっていました。安心・安全で美味しい米をずっと目指してきたって。齊藤さんの想いを受け継いで育てた「いちのまい」を、同じ想いを持つ鶴来家さんが使ってくださることを、改めてうれしく感じます。


市野々で長らく米づくりを営み、あぐりいといがわにとっての米作りの師である齊藤義昭さんのインタビュー記事はこちら

 


食材選びの基準は「安心・安全」。低農薬で育つ「いちのまい」への信頼


仁:
「いちのまい」を使ってもらうきっかけは、あぐりいといがわの前社長が、飛び込みで鶴来家さんに持ち込んだことだったと聞いています。もしや、「地元育ちのいちのまいを使え!」みたいな圧力はかけられていませんよね(笑)?


資:(笑)まったくありません。谷村建設さま(あぐりいといがわの親会社)が農業へ進出されたことにはとても驚きましたが、料理人は、常に食材への探究心でいっぱい。持ってきていただいた「いちのまい」を炊いてみたところ、素晴らしい風味ですぐに使おうと決めたと、女将である母から聞いています。地元密着の会社である、谷村建設さまへの信頼感もあったと思います。


仁:ありがとうございます。お米も含めて、食材を選ぶ基準はありますか?


資:先ほどもお話ししましたが、安心・安全かどうかですね。低農薬、無農薬で作物を育てる難しさは、わたしたちも小さな畑を持っているのでわかっているつもりです。それでも、低農薬にこだわってつくってくださっている「いちのまい」を信頼しています。

 

美しい里山が育む「いちのまい」の旨さは、料理人もとりこにする


仁:
つくり手として気恥ずかしい気持ちもありますが「いちのまい」の魅力について伺えますか?


資:とにかく美味しい。炊いたときの色つやと香りの良さが素晴らしいです。口に含んだ瞬間、ワーッと広がるんですよ、香りが。さらに、冷えたごはんでも甘みや弾力が感じられます。

鶴来家は、新潟県上越地方を走るリゾート列車「えちごトキめきリゾート雪月花」の午後便フルコースを開業当初からご提供していて、コース内の「カニちらし」に「いちのまい」を使っています。以前、お客様へ「特に印象に残ったメニュー」をアンケート調査したところ、「カニちらし」がダントツ1位だったそうです。お食事の容器をお店で洗うことがあるのですが、カニちらしが残って帰ってきたことはほぼありません。何よりの、美味しさの証明だと思います。


仁:カニだけが旨かったら、ごはんは残してもいいですもんね。自信になります。

 
味はもちろん、目にも美味しい自慢のお料理

仁:ところで、資甫子さんは「いちのまい」の稲刈りや田植えにも来てくれています。農業の現場で感じたことで、お客様に伝えたいと思われたことはありましたか?


資:「こんな美しい里山で育ててもらったお米なんだ」という、自分の感動を伝えたいです。現場にお邪魔したことで、なぜ「いちのまい」を選んでお客様にお出ししているのかを、自信持って伝えられるようになりました。

料理人のみなさんにも「一度、食べてみてください」とお伝えしたいですね。空気の澄んだ里山と、百名水に選ばれるような水に育まれた「いちのまい」の美味しさは、和食はもちろん、洋食メニューも引き立ててくれると思います。あぐりのみなさんが、自然に近い環境で育ててくださった安心・安全なお米は、お子さまにも安心して食べていただけます。

 
苗箱の重さに驚きながらも、笑顔が弾ける田植え体験

前例を疑い、チャレンジを続ける同志が切磋琢磨する関係性へ


仁:
ある取材記事を拝見し、「老舗は常に新しい」という資甫子さんの言葉が印象に残りました。わたしたちも「クリエイティブな農業」を志していて、常に革新を続けているつもりです。


資:わかります。鶴来家は、2016年12月22日の糸魚川駅北大火で全焼してしまいました。2019年の復活に向けて、昔の料亭を再建することはできたんです。でも、焼け落ちた重厚な家屋の魅力は、歴史が積み重なったからこそ生まれたもの。見た目だけ似せても意味がないと感じました。

これから、「若い世代の特別な日に選ばれる料亭」へと成長したいという想いを込め、未来を見すえた家屋への建て替えを決めた。これも、わたしたちなりの革新です。




仁:わたしたちも、これまでぶどうを届けてきた「汐路ぶどう園」の休止を決めました。一人でも多くのお客様に美味しいぶどうを届けたい、スタッフの頑張りが今より報われる場に生まれ変わらなければ続けられないという危機感から、全面的につくりかえることにしたんです。


資:お互いに、勇気がいる決断だったと思います。今日お話しして、根本にある想いや、挑戦を続ける姿勢が本当に似ていたんだ。だから、「いちのまい」や他の農産物への信頼が揺らがなかったんだ。と、改めて感じました。

料理の話をすると、老舗だからこそ出せる味、見せ方は守りながらも、新メニューの開発、新たな食材の活用にも挑戦していきたいです。あぐりさんの元で育てられた食材を、いろいろ使ってみたいです。


仁:「こんなものある? つくれる?」って訊かれたら、できるだけ育てたいし、無理なら地元で良いものを探したいという想いは常にあります。使ってみたい食材を教えていただけると、栽培にチャレンジしようというモチベーションにつながります。


資:そうなんですね。わたしたちはお料理を進化させたい。あぐりさんも、新たな作物の栽培にチャレンジして幅を広げたい。お互いに切磋琢磨して、お客様に新たな提案ができるといいですね。

 



クリエイティブが生み出す食材で、クリエイティブな料理が生まれる


仁:
安心・安全に対する真摯な姿勢はもちろん、お客様に「また来たい、また食べたい」と思っていただくためのチャレンジを続けられている姿に共感しかありません。


資:お互いのあり方が似ていて驚きました。あぐりさんとしては、今後どんなお客様とお付き合いしたいですか?


仁:可能であれば、鶴来家さんのように、クリエイティブな農業を志すわたしたちに共感してくださる料理人の方と出会いたいです。食材をつくる人、それを料理に活かす人という関係から一歩進んで、お互いの顔が見え、話し合い、アイデアを出し合える間柄になりたいですね。


資:たしかに、あぐりさんのクリエイティブな農業は、知れば知るほど惹かれます。トマトのビニールハウスにお邪魔したときも、「いちのまい」のもみ殻を焼いた「もみ殻くん炭(たん)」が敷き詰められていて、「土がないの!? 水、コンピューターがあげるの!?」と驚きました。


仁:個人的には「自分たちには、まだまだできることがある」という想いが、働く原動力ですね。チャレンジしても思うような結果が出ないこともありますが、頭をフル回転させてこれからも試行錯誤していきたいです。


資:その試行錯誤が、お客様の感動を呼び起こす食材になるんですね。わたしたちも、鶴来家のお客様、鶴来家を支えてくれる仲間に誠実であり続け、「また食べたいな」と思っていただけるお料理を追い求めます。

 


楽しく、真剣に……あっという間のひとときでした

編集後記

「老舗」といわれるお店に抱いていたイメージが一変した、今回のお話でした。200年にわたり、常に挑戦し続けるからこそ、お客様に選ばれる。そして、変化を求めながらも、「お客様に良いひとときを過ごしてほしい」という想いは一貫しているからこそ、多くのお客様からの信頼を得ておられるのだと感じました。

鶴来家さんとあぐりいといがわ、お互いが近しい信念を抱いていることを、心強く感じます。同じ想いをもつ同志の存在が働く励みになるとともに、わたしたちも、お客様に選ばれ続けるための努力を積み重ねようと思いました。


日本料理 鶴来家 様 ホームページはこちら → https://tsurugiya.jp/

 

 

 フォトギャラリー 

 
お店でいただけるお料理。美味しそう。

 

こちらはお弁当。こちらもまた、美味しそう。

 


お店のカウンターに置かれた「いちのまい」

 


苗の補充中。すべてが初体験。

 


こちらも初体験の田植え機運転。度胸満点の運転っぷり!

 


素敵な笑顔でお出迎え。ぜひ一度足をお運びくださいませ。