こんにちは。あぐりいといがわフレンズ(仮)のライター、岡島と申します。
私がもう何度目かの糸魚川を訪れたのは、5月半ば。今回のミッションは、一本のレポートを書くことでした。そのレポートとは、人手不足で困っている地域と、地域で働きたい旅人をつなぐサービス「おてつたび」※ を使い、あぐりいといがわの農作業を手伝いに来てくれた方への密着記事です。
お手伝いに来てくれたのは、農業や地方集落に関心を持つ大学生の西村星耶(にしむらせいや)さん。稲の種まきや苗植えをお手伝いしたり、糸魚川の集落で暮らす方のお話を聴いたり、自由時間を使って糸魚川の町で過ごしたりしたそうです。早速、西村さんのお手伝い現場レポートをどうぞ!
※おてつたびの詳細はこちら https://otetsutabi.com/about
単純作業ながら気が抜けない! 米づくりの本格スタート「すじまき」
今回の「おてつたびプログラム」は一週間の予定で「すじまき(稲の種まき)」が中心。朝8時から現場入りし、すじまき作業スタート!
あぐりいといがわでは、苗箱にして4,000枚ほどの苗を1シーズンにつくります。コンベア状の播種機(すじまき機)で、一連の作業※ が行われますが、人間はいうなれば機械の一部。機械の動きに合わせて土や種もみの補充、苗箱の出し入れを行います。機械が動き始めると数時間止められないため、各自の持ち場を全うする責任感とチームワークが重要です。
※すじまきの詳細はこちら https://agri-itoigawa.com/blogs/blog/rice_farming_88times07
たわいもない話をしたり、質問しながら各持ち場を経験。
西村さんも一連の作業を任され、7時間の作業を完了。単純作業はそれだけで疲れそうですが、16時の終業時にはさわやかに自転車に飛び乗り、糸魚川の町へ駆け下りていきました。若さ!
全国のお客様が待っている!「いちのまい」の発送と、野菜の苗植え
翌日は、お米の発送、野菜の苗植えをお手伝いしました。精米スペースは、発送作業をする部屋の隣! まさに「研きたて」の新鮮なお米を量り、一つひとつ封をします。箱を組み立て、近況をお知らせする「あぐり通信」を封入して梱包。宛先を見ると「いちのまい」が全国のお客様に届けられていることが一目瞭然です。
「お客様に届くと思うと緊張する……」と語る西村さんは、箱を閉じるテープ貼りにやや苦戦。基本ハイスぺすぎるので、苦手があるくらいが人間らしくてほっとします(?)。
研きたての「いちのまい」を袋に詰めます
すぐくっつくテープが厄介(ライターも大苦戦)
続いて、ぶどう畑で栽培方法のレクチャー。美味しいぶどうを実らせるためのこまやかな工夫に、西村さんの表情も明るくなります。
ただ、ぶどうはフルーツ界の中で最も手間がかかり、機械化が進んでいない果実のひとつ。特に「摘粒」は、房の理想形をイメージしながら粒を間引く作業で、経験豊富なスタッフでも難しいそうです。
人手と資材を節約するサステナブル農法があぐりいといがわの特徴
「理想の房の状態をデータ化し、どの粒を間引けば理想に近付くかのガイド(目印)をつけるくらいなら、莫大な費用をかけなくとも実現できる気が……」と呟く西村さんの言葉に、ぶどう園園長は大興奮。「おてつたび」での出会いから、世界中のぶどう農家を歓喜させる大発明が生まれるかもしれません。私は、歴史的瞬間に立ち会ったのかもしれません(言っておこう)。
午後は、かぼちゃの苗植え。丁寧な指導と常に見守ってくれるスタッフのおかげで安心して植えられました。枯れないよう、一つずつ丁寧に。
お手伝い終了の翌日、西村さんは、あぐりいといがわの米づくりの師匠であり、市野々集落での暮らしを続ける齊藤義昭さんにお話を伺って帰路についたそうです。
さて西村さんは、「おてつたび」の一週間でどんなことを感じ、どんなことを考えたのでしょうか。おてつたび終了後、オンラインで「追い取材」を行いました。
「農業と集落ぐらしを続けるために」を考え、実践できる場で働きたい
――「あぐりいといがわ」のおてつたびに応募してみよう! と思った理由、決め手はありましたか?
農業に携わる方に話を聴き、実際に農作業を経験して「今後どうやって働いていこう」と考えたいという動機がありました。比較的、家から近かったのは決め手でしたが(笑)、中山間地域の集落の保全、農業の未来を真剣に考えておられることが募集要項から伝わってきて、ぜひお話を伺いたいなと思ったんです。
――今回、最も印象に残っている瞬間についてはいかがですか?
今回、お世話をしてくださった青木さんから、ぶどう栽培の課題について伺った時間が心に残っています。先進的な技術を活かして青木さんのおっしゃる「クリエイティブな農業」ができたら、地方集落の活性にもつながると思います。
――おてつだい以外の時間(余白)はどうやって過ごしましたか?
宿の近くを散歩したり、少し足を伸ばして温泉に行ったりしました。糸魚川にしかないお店や独特な風景が多く、散歩をしても楽しかったし、人が町の中で活動している雰囲気も感じられてよかったです。市街地から離れたフォッサマグナパークにも行きましたが、電車の本数が少なかったのでアクセスには苦労しました。次回参加するなら、バイクで来て行動範囲を広げたいです。
スタッフの方もおっしゃっていましたが、糸魚川は海・山・町がコンパクトにまとまっていて、自然の中で遊べる町。スキーや山遊び、釣り、キャンプもできる。家族で暮らす町としてポテンシャルが高いなと思います。
――ご友人に、あぐりいといがわでのおてつたびをおすすめするなら、どんな経験を伝えますか?
まず、人があったかいよ! と伝えたいです。スタッフのみなさんが穏やかに話しかけてくれて、居心地がよかったです。また、将来的に農業や地方集落に関わりたい人にとっては、青木さんのように想いを持って活動している方、限界集落で生きることを選んだ方に話を聴けることはよい経験になると思います。地域の方にお話を聴こうと思っても、単身で乗り込んだだけでは、つながりがなく難しいと思いますし、そのような機会をつくってくださったことに感謝しています。
お手伝い最終日のカレーランチ
――あぐりいといがわの米づくりの師匠、齊藤さんのお話の中で、印象的な言葉はありましたか?
齊藤さんは、市野々という集落、集落での暮らしをなくさないように、何十年も米づくりに打ち込まれてきた方ですが、その行動の源泉が「故郷がなくなるのは悲しい。子や孫にふるさとを残したい」という素朴な想いなのだと知って、心が動かされました。
農村(集落)を守る理由は、食料自給率アップ、国土保全といった観点で説明できます。でも、齊藤さんの想いに触れ、自分なりの仮説ができました。ふるさと、つまり帰れる場所があることに力をもらって都会で頑張っている人って結構いるんじゃないか。ふるさとがあり、自分を待ってくれている人がいるからこそ、今、自分が置かれた環境で踏ん張れている人がいるのではないかと思ったんです。
普段、集落で暮らしているわけではない。でも、ふるさとの存在に希望をもらっている人たちの頑張りが日本を支えていると思うと、地方集落が人の心に与える影響は無視できないと感じます。
米づくりの師匠、齊藤さんのお話に聴き入る西村さん
――農作業の手伝いを通じて、農業や地方集落についての考えや想いに変化はありましたか?
里山と農業の持続に本気で取り組む人がいる糸魚川には希望がありますが、日本には、いわゆる限界集落がたくさんあります。一地域に集中するのではなく、課題を抱える地域にどんなアプローチができるか考えたいという想いが強まり、今は、農水省入省なども選択肢のひとつだと感じています。
できれば、広い視点で考えたアプローチを現地で実践し、現地で得た知見をさらに別の地域に展開するといった動きがとれるようになりたい。また、役所と現場を行き来して、実際に農作業に携わりたいと思えば、その地で活動を深めていきたいです。
最終日。ともに働いたスタッフと。
編集後記
西村さんは、農業や、農村集落に問題意識と自分なりの仮説をもった方。このおてつたびが、その仮説の有効性を確認できたり、新たな課題が見つかったりといった「発見のある旅」になっていたらと願います。
農作業を経験したい、集落の人と話してみたい、という願いを、何の伝手もなく実現することは難しいこと。「おてつたび」はそのハードルを下げてくれるサービスでもあります。お手伝いという目的があるからこそ、その場に足を運ぶことができる。私たち受け入れ側にも同じ問題意識をもつ人との出会いをもたらしてくれる。改めて、おてつたびの良さを実感した一週間となりました。
私たちや糸魚川が、おてつびとにとっての「特別」になってくれたならもちろん最高ですが、誰かの人生を、ほんの少し動かす機会になれたなら、それだけでもうれしい。今後も、おてつたびを続けていきます。
フォトギャラリー
力仕事から単純作業まで、すじまき作業はほぼ網羅
稲の赤ちゃんを並べて、お布団をかけてあげるまでがすじまき
「暑っ!」という声が聞こえてきそう
密着取材のかたわら労働するフレンズライター
女性陣の防備(笑)
同い年のスタッフさっちゃんとのトークバトルも
ゲストもとことんこき使う、人使いの荒い会社(笑)