農業機械のトリビア 明日使える豆知識 トラクター編

農業機械のトリビア 明日使える豆知識 トラクター編

現代の農業では、様々な農業用機械を使用して作業を行います。作物を選ばず汎用性の高い機械から、特定の作物・作業に特化した機械まで多岐に渡ります。どの機械にも共通していることは、先人たちの創意工夫によって作り出されたものであることです。
どんな作物でも、実りを迎えるまでには多くの手間と労力を要します。農業機械の登場はその苦労を大幅に減らしてくれるものでした。
こちらでは、農業機械の知られざる優れた機能、トリビアを紹介していきます。気軽にお読みいただき、ひとつでも「へぇ~」と思っていただければ幸いです。

今回は、農業機械の代表作「トラクター」についてのお話しです。


作業機の代表格「ロータリー」。田んぼや畑で大活躍する、農家の強い味方です。

 

人類の歴史を変えた「鉄の馬」

トラクター(tractor)は、ラテン語のtrahere(引く)に由来し、あえて日本語にするなら「牽引車」。エンジンの力で自らを動かし、なおかつ後部についた作業機を引っ張りながら駆動させて作業を行うのがトラクターです。
1892年にアメリカで発明されたトラクターは、それまで人力や畜力で行っていた土を耕す作業や収穫物の運搬などの苦役から人類を解放した画期的な発明でした。同時に、大規模な穀物生産を可能にし、後に開発される化学肥料とともに世界人口の爆発的な増加に大きな影響を与え、「人類の歴史を変えた」といわれています。

 

「回転させる」と「引っ張る」

トラクターがする仕事は2つ。ひとつはシャフトを回転させること。シャフトの回転力を、連結された作業機に伝え駆動させることが大きな仕事です。この仕事を利用して行う作業(作業機)が、土を耕す(ロータリー)、代かきをする(ハロー)、肥料を撒く(ブロードキャスター)などです。他にも、田んぼの畦成型(畦塗機)や牧草刈取りとロールづくり、除雪用ロータリーなどなど、数え上げるとキリがないほど。アイデア次第で多様な作業機が取り付け可能です。


回転する爪で土を細かく耕していきます。

もうひとつは重量物を引っ張ること。トレーラーなどを連結して収穫物を運搬したり、ときにはトラクターを運搬することや軟弱地で立ち往生したトラクターやコンバインをレスキューすることも。作業機も数百キロにもなるものが多く、柔らかい土の上での作業にはトラクターの引っ張る力は欠かせません。また、耕す作業機(ロータリー)に別の作業機を連結して、「耕しながら〇〇する」という作業も、トラクターの得意技のひとつです。耕しながら種を蒔く(播種機)や耕しながらマルチ張り(マルチャー)など。

 

多機能性と精密性

前述のように、トラクターの最大の特徴はその多機能性。田植え機や草刈機など特定の作業に特化した機械とは異なり、連結する作業機を交換することにより、一連の農作業のほとんどをこなせることが特徴です。もちろん用途に応じた作業機を用意する必要はありますが、高額な本体を何台も所有するよりはずっと経済的です。

もうひとつは、意外なほど精密であること。土を耕すという負荷の高い作業を行うため頑丈な躯体を擁しますが、作業機(ロータリー)は油圧とマイコンで制御されています。
田んぼや畑を耕す際は、平らに仕上げることと一定の深さに耕すことが大切です。水の流れとともに土が流出したり、水位の差異が生じたり、水たまりができたりなどの悪影響が考えられます。(田打ちのブログに詳細が書かれています。こちらからどうぞ

油圧でロータリーの高さをキープし、なおかつ押さえ板の角度をマイコンで制御して深さを一定に、なおかつ左右両輪のタイヤに高さの差異が生じてもロータリーは常に水平をキープしたりと、ガタイに似合わぬ精密さが持ち味です。
過去に、マイコン制御のないトラクターで耕した経験がありますが、そのときの仕上がりは目を覆いたくなるほどの悲惨な有様、二度と乗らないと誓いました()


手元のスイッチで水平や深さをコントロールできます。


押さえ板の角度を制御して一定の深さに耕します。


勾配のある場所も自動で水平をキープします。

 

安全性にもひと工夫

これまでお話ししてきたように、現代の農業において欠かせない機械となったトラクターですが、横転などによる死亡事故が多いのも事実。万一、横転した際に身体が投げ出されないように頑丈なキャビンがついている大型のトラクターは、守られている感があり、落ち着いて作業ができます。実際、あぐりいといがわでも横転させた輩がいますが、キャビンがついていたため幸いにもかすり傷ひとつなく済みました。(不安全行動によるミスだったため、こっぴどく叱られたことは言うまでもありません。)しかしながら小型のトラクターでは、キャビンのないものがほとんど。そこで、標準装備されているのが安全フレーム。横転してもこのフレームがストッパーとなりトラクターが回転することがありません。下敷きになっても空間が生じるため脱出が可能です。「邪魔だから」と外しているのを見かけますが、絶対厳禁。レッドカードで即退場です。


座席の後ろに伸びる安全フレーム。万が一の命綱です。

特に横転の危険が多いのが田んぼへの出入り時です。通常、出入り口(乗り入れ口)は傾斜がついています。田んぼから出る際に後部の作業機を上げて傾斜を登るのですが、作業機を上げすぎると重心が高くなり前輪が浮き上がる、数百キロのトラクターが「ウィリー」します。かくいう筆者も経験済み、天を向いたまま数分間途方に暮れました。そのウィリーを防ぐために設けられているのがウェイトホルダー。前部に重さをプラスすることで重心バランスを維持できます。とはいえ、作業機の上げ過ぎは禁物、乗り入れ部の走行は細心の注意が必要です。


このウェイトホルダーは2つで60㎏越え。


重たーい!(フリ?!)

 

進化を続ける鉄の馬たち

発明から130年余り、機能性と利便性、安全性を向上させてきたトラクター。ついには無人で作業できるトラクターまで登場しました。便利になればなるほど高額になるのが世の常ですが、反面、「必要最低限の機能でよいからもっと廉価なものを」という農家さんのニーズに応えたトラクターも多くなっています。どちらも、農家の知恵と経験をカタチにするメーカーさんの創意工夫の賜物です。「農業」が続く限り、トラクターの進化も続いていくことでしょう。これから先、どんなトラクターが登場するのか楽しみです。



フォトギャラリー


キャビンの中は、さながらコックピット。


手元も足元もレバーやペダルだらけ……両手両脚で足りない。


エアコン装備で快適作業……故障中(笑)。


オーディオ装備でお気に入りの音楽も……故障中(笑)。


30年以上現役のミツビシくんは33馬力。陽に照らされた雄姿がカッコいい。